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東京高等裁判所 昭和46年(ラ)75号 決定

抗告人

島田武

相手方

和泉製菓株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び抗告理由は、別紙記載のとおりである。

案ずるに疎明資料によると、相手方は昭和四五年一二月二三日臨時株主総会を開催し、相手方と鐘渕紡績株式会社(以下鐘紡という)との合併契約書承認の件(第一号議案)及びカネボウハリス株式会社(以下ハリスという)へ営業譲渡の件(第二号議案)について決議をしたのであるが、相手方の発行済株式の総数は一〇五七五、〇〇〇株であるところ、委任状提出者を含む出席株主の持株総数は八〇〇一、三二〇株であつて、そのうちには鐘紡の持株五二六四、〇〇〇株(乙第三号証の一相手方提出にかかる「和泉製菓株式会社臨時株主総会議決権行使状況」と題する書面による。甲第二号証「臨時株主総会招集通知」に記載されている合併契約書写第二条によれば鐘紡の持株は五三五万四、〇〇〇株となつている。この相違が何に基づくかは明白でないが、いずれにしても本件の結論には影響がない)が含まれていたこと、右決議は抗告人(持株九、五〇〇株)の反対があつたほかは、出席株主の三分の二を超える多数の賛成をえてなされたものであることが明らかである。

抗告人はまず、鐘紡は右決議について特別利害関係人に該当するという。

商法第二三九条第五項は、総会の決議について特別の利害関係を有する者に対して議決権の行使を禁止しているが、特別の利害関係を有する者の意義についてはなんら具体的規定を設けていない。しかし右法条の趣旨とするところは、特定の株主が純粋に個人的な利害関係を有する事項について会社と相対立する立場にありながら、総会の決議に参加することとなる場合は、右株主につきその個人的立場をはなれ、もつぱら株主としての立場から、換言すれば、会社の意思構成の要素としての立場から、客観的にその議決権の行使を期待することは現実問題として困難であるから、右株主は総会の当該決議についてその具体的な意思いかんに関せず、特別利害関係人であるということ自体でその議決権の行使を制限することとしているのである。従つて株主が個人として利害関係を有する事項であつても、会社と相対立する場合でなく、もつぱら社団たる会社の機構ないし存在に関する事項すなわち会社の組織法上の事項についてはここにいう特別の利害関係を有すものと解することは相当でない。けだし、株主は総会において自己の議決権を行使することにより、その意思を反映せしめ、これによつて会社の支配ないし経営に参加することができるのであり、その決議の形式は原則として多数決原理を採用しているのであるから、右法条にいう特別利害関係人の意義をいたずらに広く解し、株主の総会における議決権行使をみだりに制限するようなことがあつては、かえつて多数の意思に背くことともなり、法の所期する目的から遠ざかることともなり、妥当なものということはできないからである。

この意味からすれば、会社の合併は明らかに会社自体の組織ないし存在に関する事項であつて、たまたま合併契約の一方当事者(当事会社)が他方の株主である場合においては、なるほど合併のできるまでの段階において決議の対象とされる契約書の内容たる合併条件などについて相互に利害の対立することは否定できないとしても、究極は組織法上の現象として対立する利害を超克する性質のものであるから、右株主は総会の議案が合併契約書の承認であるかぎり、特別利害関係人に該当しないと解するのが相当である。そうだとすれば鐘紡は第一号議案である合併契約書承認決議については特別利害関係人に該当せず、従つて右決議について議決権を行使することができるものといわなければならない。

次に営業譲渡の場合について考えるに、およそ商行為を業とすることを目的とし、その目的の範囲内で存在する社団である株式会社にとつて、その営業の全部又は一部の譲渡その他商法第二四五条第一項各号所定の行為は会社自体の生存継続にかかわる問題である点で会社の合併に準ずるものであり、(それ故に法は合併の場合と同様の特別決議を要求する)、特別利害関係の問題も同様に考えることができる。仮りに営業譲渡の譲受人は特別利害関係人であるとしても、本件第二号議案の営業譲渡の一方当事者であるハリスは、直接相手方(和泉製菓株式会社)の株主ではなく、抗告人の言葉を借りるならば鐘紡の子会社であるというにとどまるのであるから、進んで鐘紡がハリスの株式の大半を所有し、その企業活動を支配するなど特段の事情のあるか否に関せず、相手方会社の株主総会の決議については鐘紡をもつて本件第二号議案の承認決議について特別利害関係人であるとすることは相当でない。

すると特別利害関係人が議決権を行使したことの一事によつて、総会の決議は当然取消の事由がある旨の抗告人の主張も、その前提において既に失当であつて採用のかぎりでない。

最後に抗告人は、総会の運営がいわゆる総会屋と称する一部株主によつて牛耳られ、本件決議の方法が著しく不公正であると主張する。しかし当裁判所も原決定と同様、抗告人の右主張を排斥すべきものと判断するものであつて、その理由は原決定のそれと同様であるから原決定中当該部分を引用する。

その他記録を精査するも、原決定にはなんら違法の点はない。

よつて本件抗告はこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。(浅沼武 岡本元夫 田畑常彦)

(別紙)抗告の趣旨及び抗告の理由《省略》

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